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「日本人が知らない最先端の「世界史」」を読んで その一

日本の近現代史をめぐる議論が、あまりにも日本中心であること。

というのが著者の福井義高氏の執筆動機である。著者は明治以降、日露戦争を乗り越えはしたものの欧米のような大国にはほど遠い「二流の地域大国に過ぎな」なかった。しかし戦後の主流の歴史観は、日本が世界を振り回したかのように語られる。そんな「歴史認識鎖国状態を打破すべく」書いたのだという。

日本人が知らない最先端の「世界史」

日本人が知らない最先端の「世界史」

 

 

ホロコーストは唯一の絶対悪

世界の正統的歴史認識においてホロコーストは他の虐殺と区別されるべき「人類史上類例のない絶対悪」として認識されている。それはとりわけドイツにおいて議論の余地さえない真実として扱われている。ゆえに日本の「南京大虐殺」や「慰安婦強制連行」などをホロコーストに匹敵する戦争犯罪と主張することは、ホロコーストの絶対性を「相対化」することに他ならない。「相対化」は「無害化」するものとしてドイツでは禁忌とされている。

中韓の安易な日独比較論は、今日の国際的コンセンサスから見れば、ホロコーストを無害化する危険な主張なのである。 

世界のヘイトスピーチ規制法の実態

いわゆるヘイトスピーチ解消法が平成28年6月3日に施行された。この法律は物議を醸しだす問題の多いものであるが、罰則規定は設けられていない。アメリカは表現の自由をたいへん尊重することから、規制の導入には慎重で今後もその蓋然性は低い。

ヘイトスピーチ規制の先進国はドイツとフランスである。ドイツでは刑法130条に民衆扇動罪(Volksverhetzung)が定められている。2005年に追加された第4項にはナチスホロコースト等を是認、または正当化し、犠牲者の尊厳を傷つけた場合には刑事罰に処される。これによって「定説」となっているユダヤ人迫害を否定することはもちろんのこと、批判することはたとえ学術的であっても許されず、もしそれをすれば「一種の思想犯」と看做され社会的地位を失うのである。

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上述のことはフランスにおいても同様である。この国のヘイトスピーチ規制法は通称「ゲソ法」と呼ばれ、1990年に制定された。この法律もホロコースト否定もしくは矮小化を刑法で禁止している。ちなみにホロコースト否定を禁じている国は11カ国ある。*1

これらヘイトスピーチの規制は冷戦後ますます強まり、「第二次大戦正(聖)戦史観*2」に異論を唱えることが困難になる一方で、他方共産主義批判は高まらなかった。規制の実態から明らかなように、その対象は「極右」であるファシストかネオナチであり、「民主主義対ファシズム」という構図がある。したがって「極左」はそこから除かれるため啓蒙的普遍主義、あるいは世俗化されたキリスト教的普遍主義が無批判に是認せられ、多文化共生政策が推し進められている。

このような観点に立てば、民族や人種の相違を強調したファシズムやナチズムと違って、人種や民族を超えた「ホモ・ソビエティクス」(Homo Sovieticus)からなる社会建設を目指した20世紀共産主義運動は、確かに普遍主義の側に立つことは間違いない。したがって、ヘイトスピーチ規制が、民主主義対ファシズムという名の正義と悪の二元論に基づく連合国史観への意義を、その対象とすることは自然といってよい。

*1:ドイツとフランス以外にベルギー、スイス、オーストリアポーランドチェコスロバキアルーマニアリトアニアイスラエルである。イギリスとカナダでは否定を禁じてはいないが、名誉毀損や民族間の憎悪の助長を禁ずる法律はある。

*2:連合国史観、あるいは第二次大戦「正史」