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王様の耳は驢馬の耳

受け売りを書いているだけです。気になさらないで下さい。

軍人と政治家よりの教訓

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 日本は明治以来、政治と軍事を分離してきた。軍国主義批判が喧しい現代では正しい政治形態とされているが、果たしてそうであろうか。

 我が国に於いては鎌倉時代から江戸時代末期までの凡そ七世紀、武士が政権を握って来たという伝統に反する失政であったと大川周明は指摘する。

  武士は第一に軍人であり、また政治家であり、武門政治とは全国に恒久的に戒厳令を布きつつ、戦を念頭に国を治めた。従って今日で言う所の官庁は城であり、公務員は武家である。町奉行勘定奉行も警察官や財務官ではなく、憲兵司令官や主計官に比べるべきものである。

 而して当時の武家は、各々その藩主に分属し、藩主のために「戦うこと」を以って最後の義務とせるが故に、公のために生死すべき生命を有して、私のために生死すべき生命を有たなかったのであります。

 一武士の生活は藩全体の生活と一体となり、私を棄て、公に帰一し、統制ある共同生活を営んだ。これが謂わば非個人主義的、或いは没個人主義的精神が涵養される素地となったのである。そうして日本人は個人として独立し国家や社会に対し己の自由と権利の尊重を主張するのとは反対に、滅私奉公に表される無私の精神を発展させたのである。

 幕府や藩に限定されていた無私の精神を、幕末に於いて世界の中の日本を知るに及び、日本全体に拡充させた。藩への愛を国に、君主への忠誠を天皇に伸展させたのである。

 若し吾国に藩なるものなく、藩の共同生活なく、武士的訓練なかったならば、恐らく公戦に勇にして愛国の情に濃(コマヤ)かなる日本民族を見ることが出来なかったろうと思われます。

 しかし西欧の政治制度を模倣し近代化を急ぐあまり、維新後の政治家は武門政治の政治的伝統を等閑視し、徳川時代の政治を悉く否定してしまったことは今日より顧みれば明白に失策であったと大川は言う。これに筆者も強く共感する。

 明治維新に因って先ず軍事と政治が分化した。これは当然のこととしても、政治家は武士道を軍人にのみ委ねて、武門政治時代に武士に必須であった為政者としての人格的鍛錬を放棄したのである。

 いま仮に軍人が収賄又は贈賄の嫌疑を受け、またはこれによって刑に処されたとすれば、如何に名称の器であろうとも、其人は帝国の陸海軍から葬り去られなければなりませぬ。然るに政治家の場合は殆ど左様の心配がない。

 例え名将であろうとも贈収賄の嫌疑を受けてしまえば、彼の命令に従い命を懸けて任務遂行に当たる下士官はいまい。軍人には武士道が幾分残されており、清廉潔白なる上官が求められているだけに留まらず、命懸けの任務に贈収賄の嫌疑がかけられている上官に従うことなど到底出来はしない。そのような上官は軍隊から駆逐されねばならない。

 しかし政治家であればそうとは限らない。なぜか。命懸けではないからである。無私に成りきれず命懸けでもない政治家を国会に送り出す我ら国民もまた無私でも命懸けでもない。誰も彼もが道徳をなおざりにし一顧だにしないのは、明治維新から始まる政軍分化の、文武両道の否定から来る宿痾であろう。

 長く儒教文化に浸ってきた日本にとっては、西欧の如く法律制度を整えたところで、これを国民が自発的、自治的に行動することに慣れては居ない。日本に限らず今日でもアジアでは人治的政治を重んじる思想が根深い。政治上最も重んじる所は政治家の人格であって、法律や制度ではないのである。

 これを認めるならば日本の為政者は、七世紀にも及ぶ武門政治を顧みなければならない。社会は複雑多端であり理知の及ぶところではないが、それでも全体的判断を下し得る者だけが政治家としての資格を有する。

 而して其の全体的判断の主たる要素を構成するものは、事務的判断でなく、科学的判断でもなく、広義に於ける道義的判断であります。

 それは精神的鍛錬を経た者だけが能くするところであり、また東洋思想は古来政治家に対し哲人の素養を要求していると言う。しかし政界のみに限らず現代日本を見渡してこの素養の有る者がどれほど居るか。多くは会社の社長や重役には相応しいが、国家の重臣たる者は稀有の例外であろう。

 私は現代日本の政治的堕落に、いろいろの原因を認めまするがその最も根本的なるものとして、政治家が精神的鍛錬を無視し、世間もまた之を求めなかった一事を挙げたいのであります。

 千里馬は常に有れども、伯楽は常には有らず。政治家の堕落を論う前に、我ら国民こそが真の政治家を選べないことを猛省せねばならない。主権が国民に存する民主主義を続けるのであれば、これは当然の義務であり、国民全員が哲人でなければならない。出来ぬのであれば速やかに大政を奉還せよ。