和辻哲郎の主著と言えるこの『倫理学』は哲学書であり、前著である『人間の学としての倫理学』を体系的に叙述しようと試みた大著である。和辻自身が認めるように、本著は一見異様に見える。というのも、ありきたりな倫理学書といえば「既成の倫理学の定義や概念を並べ立ててその整理をもって能事おわれりとする」ものだが、倫理学の任務は「倫理そのものの把捉」であるとしているためだ。
倫理は「我々の日常の存在を貫いている理法」であるから、誰でもその足元から発見することができるものである。倫理そのものは倫理学書の中にあるのではなく「人間の存在自身の内にある」ということである。
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